宿泊者名簿に本名や本当の住所を書きたくない。そんなとき「偽名でもバレないのでは」「私文書偽造にはならないから平気」という説明を見かけます。
ところが旅館業法には、宿泊者が偽って告げた場合の罰則が直接書かれています。この記事は、e-Gov法令検索で条文を2026年8月22日に開いて確認した内容をもとに整理しています。
- 宿泊者名簿への記載はホテル側の法律上の義務(旅館業法第6条第1項)
- 宿泊者にも「請求があったときは告げなければならない」という義務がある(同条第2項)
- そして偽って告げた者には拘留または科料(第12条)。宿泊者本人が罰則の対象です
- 「私文書偽造にあたらない」は事実ですが、だから問題ない、にはなりません
宿泊者にも「告げる義務」がある
まず、名簿の条文を見てみます。前半はホテル側の義務ですが、第2項は宿泊者に向けられています。
営業者は、厚生労働省令で定めるところにより旅館業の施設その他の厚生労働省令で定める場所に宿泊者名簿を備え、これに宿泊者の氏名、住所、連絡先その他の厚生労働省令で定める事項を記載し、都道府県知事の要求があつたときは、これを提出しなければならない。
2 宿泊者は、営業者から請求があつたときは、前項に規定する事項を告げなければならない。
旅館業法 第6条(e-Gov法令検索)
記入を求められたら答える義務がある、という構造です。断る自由が用意されている条文ではありません。
偽って告げた場合の罰則が、条文にそのまま書かれている
ここが本題です。旅館業法の罰則の章に、次の一条があります。
第六条第二項の規定に違反して同条第一項の事項を偽つて告げた者は、これを拘留又は科料に処する。
旅館業法 第12条(e-Gov法令検索)
読みどころは主語です。ここで罰せられるのは営業者ではなく、偽って告げた宿泊者本人です。旅館業法のほかの罰則がホテル側を対象にしているなかで、この条文だけが宿泊者に向いています。
「拘留」「科料」とは
(スマホは横スクロール可)
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 拘留 | 刑法に定められた刑のひとつ。身体を拘束するもの |
| 科料 | 刑法に定められた財産刑のひとつ。罰金より軽いもの |
重い刑ではありませんが、刑罰であることに変わりはありません。「バレるかどうか」の話ではなく、そもそも法律が禁じている行為だという点を押さえておいてください。
「私文書偽造にはならない」の意味
ネット上でよく見かける「宿帳に偽名を書いても私文書偽造にはならない」という説明そのものは、的外れではありません。私文書偽造は、他人になりすまして文書を作ることを問題にする犯罪で、単に架空の名前を書く行為とは構成が違うためです。
ただし、そこで話が終わってしまうのが問題です。私文書偽造にあたらないことと、旅館業法第12条にあたらないことは、まったく別です。旅館業法のほうは、まさにこの行為のために用意された条文です。
なお、他人の氏名を使って宿泊料を踏み倒すといった行為は、また別の犯罪の問題になります。この記事はその点までは扱いません。
名簿は3年間保存されます
もうひとつ、知っておくと納得しやすい事実があります。厚生労働省令は、名簿の保存期間を次のように定めています。
法第六条第一項の宿泊者名簿(以下「宿泊者名簿」という。)は、当該宿泊者名簿の正確な記載を確保するための措置を講じた上で作成し、その作成の日から三年間保存するものとする。
旅館業法施行規則 第4条の2第1項(e-Gov法令検索)
注目したいのは「正確な記載を確保するための措置を講じた上で」という一文です。国は、名簿が正確であることを前提に制度を組んでいます。フロントで身分証の提示を求められることがあるのも、この延長線上の話です。
名前を知られたくない事情がある場合
偽名を考える背景には、まっとうな不安があることもあります。その場合に取れる手は、嘘をつくことではありません。
- 取り次ぎを断ってもらう。「外部からの問い合わせに宿泊の有無を答えないでほしい」と伝えれば、対応してくれる宿があります
- 郵便物やメールの宛先を分ける。予約サイトの登録情報と、日常で使う連絡先を分けておく
- 身の危険がある場合は公的な相談窓口へ。宿の運用でどうにかする話ではありません
宿泊者名簿はホテルが勝手に外部へ出せるものではなく、提出先として条文に書かれているのは都道府県知事の要求があったときです。むやみに広まる仕組みではない、という点も押さえておくと判断しやすくなります。
予約は正しい情報で取るのがいちばん早い
予約サイトの登録名と当日の本人確認が食い違うと、チェックインで足止めされます。正しい情報で予約しておくのが、結局いちばん手間がかかりません。
よくある質問
ニックネームやハンドルネームで予約するのはだめですか?
予約サイトの表示名と、チェックイン時に名簿へ記載する氏名は別の話です。名簿に記載する情報は正確である必要があります。予約名がニックネームだと本人確認で手間取るので、予約も本名で取るのが無難です。
旧姓や通称名を書くのはどうですか?
この点について公的な資料で明確な扱いを確認できなかったため、断定しません。事情がある場合は、予約時に宿へ直接相談してください。
代表者1名だけ書けばいいのでは?
条文は「宿泊者の氏名、住所、連絡先」を記載事項としており、代表者だけとは書かれていません。同室の全員分を求められることがあります。運用は施設によって異なるので、チェックイン時の案内に従ってください。
あわせて読みたい
この記事の出典と確認日
本記事の内容は、以下の資料を2026年8月22日に開いて確認した記載にもとづいています。個別の事案についての法的助言ではありません。
- 旅館業法(e-Gov法令検索) 第6条・第12条
- 旅館業法施行規則(e-Gov法令検索) 第4条の2


コメントを残す